Sugarless




<リョーマサイド>










苦しい…。胸が苦しいよ…。



英二先輩の背中は温かくて気持ち良いのに、凄く居心地が悪い…。



体全体から、離れろ!って拒否の言葉を投げかけられてるようで、心が痛い。



…こんな気持ちに、先輩は気付かないんだろうけどね。










「おチビ、部屋に着いたにゃ。」



「ん、有難う…先輩。」



にっこりと微笑んだつもりでも、引きつってたのかな?


英二先輩が曖昧な微笑を浮かべてた。



「スイマセン…送ってもらっちゃって。」



「平気だよん♪愛しのおチビの為だもんね。」



嘘吐き…。そんなの微塵も感じさせないくせに…。



「俺の事、本当に好きっすか…?」



「…にゃんで?俺、不安にさせるような事した?」



全てだよ…。付き合った瞬間から、アンタは俺を不安にさせてる…。


ワカラナイ…コノヒトハシンジルニアタイスルノ?



「別に…。変な事訊いたっすね。もう帰っていいですよ、外暗いし。」



先輩がその気なら、俺も突き放すまでだよ…。


俺は溺れてなんかいない。ただ愛してしまっただけ。


この哀しい男に…惚れてしまっただけ…。



「…な〜んか冷たいの。恋人ってこんなんだっけ?」



アンタはまた俺を試すの…?


いつまで俺を苦しめるの…?


俺は…俺は…


どうすればアンタに愛してもらえるの?



「…う…ち、がう…違う!こんなの俺の求めた結果じゃないっ!!!」



何に対して怒鳴っているのか、何に対して心を痛めているのか…そんなの原点を辿れば解る。


全部、先輩だよ。


俺を狂わせて、そして悩ませるのは…。



「…じゃあ、"どんなの″がおチビの求めた結果なの?」



「っ…それは……」



「答えられないでしょ?…俺達は曖昧なんだよ。境界線を越えられないで居る…。」



先輩の言いたい事が、何となく解る。


俺も感じていた疑問。そして答え。


俺達は"本物″を見出していない。


ただ路頭に迷った末に…こうして隣に居るように見える。



「…俺達って遠いよね…」



「…隣には確実に居ないな。その先にも…」



遥か彼方に存在する俺達。


その距離は決して埋められるものではなく、求めた答えから遠く離れた場所。


…俺は…俺達は何の為に一緒に居ようとするの…?



「…判らない。俺達って一緒に居るべきなの…?」



「おチビ…!もう、休みな?疲れてるから、嫌な事考えちゃうんだよ?」



俺を寝かし付けようとする先輩の手を、ギュッと握る。


温かい…でも背中と同様に拒否されてる。


俺は…もう無理かな………。



「おチビ…。俺、帰るね。…俺も少し頭冷やすよ…。」



「…うん、さよなら…」



決して別れの言葉ではないけれど、心に棘を刺す単語。


『 さよなら 』


この言葉が永遠に俺達を引き離す呪文なら、どれだけ気持ちが楽になるだろう?


お互いに…離れたくても離れられない。


そんな感情を抱くから、余計に混乱する。


見えないようで見えている、俺達の絶対なる距離に…。



「…また、明日ね。」



「うん…。」



また明日…それは再会を約束する言葉。


今は何よりも…その言葉が辛い………


逢える事を楽しみにする自分と、拒否する自分。


重なり合う自分の幻影に、戸惑い、そして怯える。



「せ、んぱい…っ…う、う…苦しい…よ……」



どんなに泣いても、この先に先輩が居ない限りは救われない。


そう解っていながらも、呼んでしまうのはあの人。


もう逃げられない罠に落ちたのは俺?



「大好き…でも、大嫌い…」



矛盾した言葉こそあの人のために在ると思う


だって、俺達の関係ほど…


曖昧で矛盾していて…そして無意味なものはないから。